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ある弁護士の仕事の流儀 その2 『国葬』

2022-09-30

 国葬とは、『広辞苑』第六版によれば、国家の大典として国費で行う葬儀とされています。
  国葬開催の法的根拠について、内閣府設置法4条3項33号「国の儀式並びに内閣の行う儀式」が指摘されています。この法的性格は、組織規範と呼ばれるもので、行政活動をどこの行政機関が行うかを定めたものに留まります。
  誰を国葬の対象者とするか、その基準は何か、という点について、内閣にその決定権限を認めたものではありません。
  この肝腎な点を定めた法律は、現在ありません。
  ここで皆さんに思い出していただきたいのは、三権分立という制度です。国の権限を三つの機関、国会、内閣、裁判所にそれぞれ立法権、行政権、司法権を分属させることが、国家権力の恣意的行使を防ぎ、国民の福利に資するとして、考え出されたものです。
  行政権は、国民を代表する立法権をつかさどる国会の決定に従って、行政権を行使することが原則です。
  したがって、政府が、上記法があるから、安倍氏を国葬の対象とすることができる、と主張することは、法的にはかなり苦しいです。
  その主張は、時の政府が、自由に国葬の有無を決定できるということとイコールであり、そんな恣意的決定に国葬費用全額が 税金で賄われるということに多くの国民が不満をいだくことは無理もない話です。
 それでは、国葬の要件を定める法律がない場合、どのような対応が適切なのでしょう。
  こういう時こそ、原則に立ち戻って考えることが有益です。法律がなければ、本来の決定機関である国会の議決による、ということが適切かと思われます。
  なお、誤解を生じないよう付言します。人の死を悼み、弔うことは人として大切なことです。その事と、国葬に反対することは両立します。それなのに、国葬に反対する者は非国民であると批判することは、いたずらに、国民の分断を図ると同時に、自分たちの価値観を押し付けるもので、不適切です。
  手を合わせる方は合わせるし、手を合わせたくない人は合わせない、人それぞれです。そして、民主主義の本質は、自分と異なる価値観に基づく言動に対する許容性の幅の広さにあるのではないでしょうか。了

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