ケルビム法律事務所

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最高裁令和6年4月26日 第二小法廷判決 「職種限定の合意がある場合、労働者の同意なき配置転換は違法無効」

2024-05-02

1 最高裁の判断
 最高裁は、使用者と労働者間に職種及び業務内容を技術職に限定する旨の合意(以下「本件合意」という。)がある場合、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しない、と判示し、使用者の配置転換命令を有効と認めた原審の判断を破棄し、大阪高裁に差し戻した。

2 事案 
事案は、18年間、黙示の職種限定合意に基づき、福祉用具の改造・製作に携わってきた労働者を、需要の激減・解雇の回避という理由から、労働者の同意なく、総務課への配転を命じたという事案である。

3 原審の判断
  原告は、労働契約において職種限定合意が認められるから、原告の同意のない本件配転命令は違法無効であること、仮に認められない場合でも、使用者の配置転換命令は権限濫用で無効であると主張した。
  これに対し、原審は、配置転換命令は、原原審で解雇もありうる状況のもと、これを回避されたものといえ、不当目的があるともいえない等の理由により、本件配転命令が違法無効とは言えないとし、一審の結論を維持した。

4 なぜ、同じ裁判所でありながら、結論が異なるのか
  一審では、原告が、配置転換命令は、権利濫用であるとの主張もした結果、権利濫用には当たらないとして、原告の主張を退けた。
  また、職種限定合意も、黙示の合意の成立を認めた上で、需要が激減している中で、欠員が生じた総務課への配転命令は、必ずしも違法とは評価しがたい、とする。二審も同様の判断である。
  これに対し、最高裁は、上述のとおり、黙示であっても、職種限定合意がある以上、使用者は、労働者の同意なく、配置転換を命令する権原を有しないと判示した。
  最高裁と原審等の評価の違いは、職種限定契約の拘束力の評価による違いです。原審等は、事後的な状況の変化を柔軟に解し、結果、職種限定契約の拘束力を緩める結果となりました。
  これに対し、最高裁は、職種限定契約の拘束力を強く認めています。すなわち、労働者の同意がない限り、使用者に配転命令の権限はないと明言しているからです。
  もっとも、このことから、最高裁が、労働契約成立後の事情の変化を一切認めない趣旨か、という点については即断できません。
  最高裁は、事情変更の法理を一般的に認めています。すなわち、事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、契約締結時の当事者にとって、予見することができず、かつ、右当事者の責めに帰することができない事由によって生じたものであることが必要、と判示しています(最判平成9年7月1日)。
  最高裁が事情変更に言及することなく、上記結論を明示したのは、何より、職種限定契約をした労働者の地位を明らかにし、その保護を図った点にあると考えられます。

5 今後実務で留意すべきこと
  最高裁が判示する通り、事前に労働者の同意を求めたところ、労働者の同意が得られなかった、会社は、どうすればよいのでしょう。
1) 事前の対策
 労働契約書の中に、予め、例外事由を定めておきます。すなわち、原則、配置転換には、労働者の同意が必要であることを定め、例外事由として、同意を求めても、労働者の同意が得られない場合で、当該限定職務にかかる需要が著しく減少し、企業として、当該限定部門を存続させることが合理性を欠く場合には、使用者は、配置転換をすることができる、等。
2) 事後の対策
 ア 改めて、協議に基づき、合意内容を変更する。
 イ 所定の退職金額に相当額を積み増した退職金の支払と引換えに退職する。
3) どちらが得か
いうまでもなく、事前に労働契約の中に例外事由を定めておくことです。
2024年4月より、労働条件を明示することを求める労働基準法の改正が行われました。この機会に、今一度、お手元の労働条件通知書等の契約内容を確認してみましょう。